第60章 お互いの
「みわは、お父さんにそっくりだねえ」
お父さん。
「……おばあちゃん、私、お父さんに似ているの?」
「似ているよ、とっても」
「……お父さんって、どんなひとだったの?」
お父さん。
私が小さい時に離婚したと聞いているから、顔などは覚えていない。
「……みわは、お父さんのことは何も聞いていないのかい?」
「うん、何も……知らない」
「あらあら、お母さんから聞いていないのかい」
「なんにも……聞いてない」
聞いてない、と思う。
お父さんの話は、禁句だった。
お母さんにその話をすると機嫌が悪くなるし、お母さんの恋人に酷い事をされる事もあったから、子どもながらに【聞いてはいけないこと】として認識していた。
「あなたのお父さんはね、正義感が強くて、優しくて、家族を大事にするひとだったわ。あなた達の事を、何よりも大切に思っていた。
自分の犠牲を厭わないほどにね」
お父さん……。
会いたい……。
「自分の周りの人を大事にするのは大切よ。
でもね、人を大切にするためには、まず自分を大切にしないと。
緩んだ地盤の上に建物を建てられないでしょう?」
「……うん……」
「あなたのお父さんは、あなたが自分を大切にしていないと知ったら悲しむ」
……。
お父さん……。
「お父さんが大切にした存在を、あなたも大切にしてあげて。それだけよ」
「うん……わかった……」
「それと同じよ。黄瀬さんはあなたの事をとてもとても大事に思ってくれているから」
違うよ……
涼太はもう……
「あなたはこれから、たくさん辛い思いもするし、悲しい思いもする。
それを彼は受け止めてくれる。あなたも、黄瀬さんの力になりなさい」
そう言うおばあちゃんの目には揺らぎがない。
「おばあちゃん……大袈裟だなぁ……涼太がどれだけ人気があるか知らないから、そんな事言えるんだよ、あはは」
私が彼を独占するなんて勿体無いくらいだ。
それはよく、分かっている。
悔しいけど……よく、わかってる。
「みわ」
「なぁに?」
「幸せに……なりなさい」