第60章 お互いの
「みわ、今日はバスケットの練習はいいのかい?」
「うん、今日はお休み貰ったの。
必要な荷物とかも持って来なきゃいけなかったしね」
日当たりのいい病院の中庭。
休日だからか、同じように外へ出て来ている患者が多い。
おばあちゃんの車椅子を押しながら、散歩をしている。
太陽の光は暖かいけれど、風はびっくりするほどに冷たい。
今頃、皆お昼ご飯を食べているかな。
涼太はすぐ、残った時間でお昼寝しちゃうから……。
脳まで寝ちゃうから、横になるよりも座って少しだけ目を閉じた方がいいと、あれだけ言ってるのに。
まだ寒くなる前は、膝枕をしてって体育館の裏まで引っ張られたっけ。
本当、自由なひと。
「やっぱりねえ、退院出来るまでに2、3ヶ月かかりそうなんだって。
みわ、こうして頻繁に来てくれることないからね」
「え、そんなにかかるの!?」
昨日、自分でもネットで色々調べてみたけれど、高齢者の骨折だと、リハビリも合わせてそのくらいの入院期間が必要になる事があると書いてあった。
すぐ退院して、リハビリ通院をすればいいものかと侮っていた。甘かった。
「だから、黄瀬さんとゆっくり過ごしなさい」
「え?」
「あなたの事だから、私と一緒に暮らさないと、とか考えているんじゃないかと思って。
気にしなくていいから、黄瀬さんと一緒にいなさい」
「だ、だって、退院したらひとりじゃ大変だし……!」
「杖でもなんでも使えばなんとかなるわよ。可愛い孫に面倒かけたくないわ」
「……」
「みわ? どうしたの?」
「…………」
「その手、学校で怪我をしたの?」
「……ううん、カップ割っちゃって、それでうっかり手を切っちゃったの。マヌケでしょ、あはは」
「あらあら、気をつけなさいね。黄瀬さんも悲しむわよ」
「……どうして涼太が悲しむの?」
「どうしてって、あなたの事をあれだけ大切にしてくれているんだから、当然でしょう?
あなたはもっと、自分を大切にしなさい」
また、それだ。
「……おばあちゃん、私、この間もあるひとにそれを言われたんだけど、"自分を大切にする"って、どういうこと?」
「……みわ?」
「どうして私みたいな人間が、自分を大切にしなきゃいけないの?」
「みわ……」