第60章 お互いの
足の調子はいい。
今週再度病院に行って、経過を確認したら通常練習に戻れるはずだ。
これも、みわのおかげ。
1日も早くボールに触りたい。
……ボール自体は、感覚が鈍らぬように家でも触っているけれど……。
早く、今まで通りに戻りたい。
この荒れた心を落ち着かせたい。
次の日、みわは練習に来なかった。
休日の練習を休むなんて、初めての事だ。
ちゃんとカントクや早川センパイには連絡が行っていたようで安心したけれど……。
なんという理由で休んだのかは聞いていない。
どうやら朝早くに部室に来たらしく、オレのトレーニング用メニューがマグネットでロッカーに貼ってあった。
わざわざ、これのために来てくれたんスかね。
オレの事を考えて作ってくれたメニュー、手書きのメニュー表に嬉しくなった。
いつも、ダイニングテーブルで書いてくれていた。
オレの足の状態、全身の筋肉量。
可動域まで、オレよりもオレの身体の事を知ってくれている。
……プリントを留めていたマグネットが、この間お揃いのぬいぐるみを買ったキャラクターのもので、少しホッとしたのと同時に、傷付けてしまった事でまた胸が痛んだ。
「黄瀬、お前はお見舞いに行かなくていいのか?」
昼休憩中、隣でパンをかじっている早川センパイに話しかけられた。
「お見舞い……っスか?」
「神崎のご家族、入院したんだろ? 落ち着くまではバタバタしそうだな」
横から中村センパイが入ってきた。
え?
入院?
ご家族って……
誰が?
……背中に嫌な汗が流れる。
電源の落とされた携帯電話。
オレはもしかして、物凄く大バカな勘違いをしてしまったのではないか?
あのタバコの臭いの説明はつかない、だけど……。