第60章 お互いの
いない。
どこにもいない。
どこに行ったんだ。
「みわ!!」
近所迷惑だろうがなんだろうが知るもんか。
いくら名前を呼んでも、走り回っても、みわの痕跡ひとつ見当たらない。
突然出血が止まるなんて考えられない。
実際、エントランスには血の跡が点々としていた。
誰かに車で連れ去られた……!?
最悪の想像に、ぶるっと身震いをした。
何か、何か手がかりはないか。
みわのスマホには先ほどから数分おきに電話をしているが、応答する気配がない。
部屋には見当たらなかったから、きっと持って出た筈だ。
再度電話をかけ、やはり誰も出ない事に落胆していると、突然あきサンからの着信。
「もしもし!? あきサン!?」
彼女なら、もしかしたら行きそうな場所に心当たりがあるかもしれない。
『連絡すんなって、言われたんだけどさぁ……』
「え?」
『みわ、うちにいるから心配しないで。あんたが探し回ってたら気の毒だと思って、念の為連絡』
みわが、いた。
ドクドクとはち切れそうになっていた心臓が落ち着いていくのを感じた。
「……あきサンのとこに? オレ、じゃあ迎えに」
『いや、今はやめておいて。何があったかは知らないけど、かなりショックを受けてるみたいだから』
かなりショック……
当たり前だ。真っ白になった彼女に、これ以上無いほど酷い言葉を浴びせた。
自分がああいう時に、あんな風に自分を見失ってカッとなるタイプだとは思いもしなかった。
『喧嘩したわけ?』
「……いや、ケンカじゃねぇっス。オレが、一方的に怒っただけ……みわはなんて?」
『それが、あんたとの事に関しては何も口にしないから、分かんないのよ。
とりあえず、怪我も病院に行ったから大丈夫。本人が帰りたくなったら帰らせるよ』
「ありがとう……あきサン……」
『黄瀬』
「なんスか」
『あんた、もっとしっかりしなさいよ』
「……ごめん」
電話は、そこで切れた。
みわのコートを強く抱きしめて、帰路に着いた。