第12章 夏のはじまり
夏がやってきた。
IH本戦の、夏。
予選が行われている時期には、
海常の試合の合間に、黄瀬くんや笠松先輩と誠凛の試合を観に行った。
黒子くんのいる誠凛は、予選決勝リーグで負けてしまったけど……
うちは順調に勝ち抜き、いよいよ明日は準々決勝、桐皇学園戦だ。
青峰さんがいるチーム。
三年生は最後のIH……特に、笠松先輩は、去年のIHでの想いがあるから、絶対勝ちたい。
先輩たちを、勝たせてあげたい……!
試合中、黄瀬くんの進化で青峰さんのコピーをすることに成功したけれど、最後のチャンスで、パスが通らず……
結果、海常は、負けてしまった……。
でも、皆出し切った。誰も諦めなかった。
チームメイトを信頼して、出し切った。
私は、あの場面で笠松先輩に出したパスが間違っていたとは、今でも思わない。
いざという時に頼れる仲間がいること。
それ自体が、素晴らしいことなのだから。
私は、海常の皆と一番近くにいたからよく分かっている。
黄瀬くんが入部してから、なかなか噛み合わなかった歯車も、段々噛み合うようになって。
目に見えて、皆が黄瀬くんを信頼するようになって。
黄瀬くんも、先輩方を尊敬・信頼するようになって。
海常は、最高のチームだ。
この悔しい思い、ウィンターカップで絶対、晴らす!
ホテルに戻り、口数少なく部屋へ向かった。
こんな時でも、私を送っていくというのは譲らない黄瀬くん。
もう、試合で足がボロボロなのに。
「みわっち、今日は、お疲れ……」
「……黄瀬くん、部屋、寄っていって。マッサージ、するから」
「……そうっスね……」
私も、黄瀬くんも泣き腫らした目で部屋に入る。
冷やしながら、足をマッサージした。
限界まで使った足。最後まで戦った身体。
すべての手当てが終わると、どちらからともなく、強く、抱き合った。
言葉はなかった。いらなかった。
唇に触れるだけのキスをして、そのまま抱き合って眠った。
私はただ、戦い疲れた戦士を癒してあげられる存在でありたかった。