第11章 過去
「……うまいこと逃げるつもりだったのに、最後にやっちゃった……けほ」
「みわっち、苦しいならまだ喋っちゃダメっスよ」
「黄瀬くん、手が! 血だらけ!」
「こんなのすぐ治る。みわっちの方こそ、大丈夫っスか」
「大丈夫……ちょっと驚いただけ、だから。手……すぐに手当てしないと」
「みわっち、首に跡が……」
すごい力だった。
ビクともしなかった。
抵抗なんてなんの意味も無かった。
男の、力。
ぶるっと身体が震えた。
「みわっち……どうしてあんな無茶……」
どうしてこの人の胸はこんなに安心するのか。
……『あんな無茶』……?
……まさか。
「き、黄瀬くん……私達の話……」
「……ごめん、外で全部聞いちゃったっス。みわっちの事だから、絶対無茶するって分かってたし、心配で……」
うそ……うそ……
もう、誰に聞かれてもいいという覚悟で挑んだのは確かだけど、まさか、まさか。
……黄瀬くんは……どう……思った……?
なんて、怖くて聞けない。
ヤツの口から出たおぞましい当時の話。
散々陵辱され、蹂躙された話なんて、誰が聞きたいだろうか。
「……よく耐えたっスね。もう、頑張らなくていいから」
それだけだった。何も聞かず、何も追及せず、責めず。
何度目だろう、また黄瀬くんの胸を借りて少しだけ泣いた。
もう、大丈夫。
ずっと今までの私ではいられない。
「……アリガト……も……大丈夫……」
「立てる?」
よろけた身体を支えて貰いながら、なんとか立ち上がった。
「うん。引越し準備もしなきゃいけないし、まだまだやる事だらけだから……」
「みわっち、引越すんスか」
「うん、一応……学校の近くにしようかなって」
「アイツ……逆恨みとかしてこないっスかね……」
「一応その辺りは母に任せてある……の。子どもだけじゃ限界があるし……これでIHに集中できそう。
巻き込んでごめんね。ありがとう。勝とうね。」
「もちろんっスよ! なんかあったら、すぐにオレに相談するんスよ、わかった?」
「ありがとう……」
……そうして、私たちはIHを迎えた。