第60章 お互いの
血……!?
一瞬、嫌な想像が……手首を切ったのかと思った。
しかし、みわの姿はない。
調理台には新聞紙が広げてあり、カップの残骸が重ねてある。
破片も真っ赤だ。
片付けている時に手を切ったのか。
少し指を切ったレベルの出血ではない。
まるで、躊躇いなくガラスを掴み、肉が抉れるように切れた……そんな傷ではないか。
手当てはしたのか?
慌ててリビングの救急箱を覗いたが、開かれた気配はない。
救急箱を持ってみわの部屋に行こうと、リビングから出ようとして固まった。
ドアノブが、赤く染まっていた。
床にも続く、赤い点。
まるで、怪我をしている事なんて一切気にしていないかのように。
ゾッとして、急いでみわの部屋に向かう。
みわの部屋のドアノブも同じ状態だった。
コンコンとノックしても、返事がない。
「……みわ、入るっスよ」
こんなに出血しているのを放置しているなんて、自殺行為だ。
若干躊躇いを感じたが、思い切ってドアを開け放った。
「……え……」
部屋には誰もいなかった。
焦って電気を点けたが、もぬけの殻だ。
嫌な予感がしてバスルームへと走ったが、バスルームにもトイレにもいない。
「みわ……!」
リビングに戻り、ベランダを見る。
血の跡がない。
ここには来ていない。
少しホッとして、室内に戻る。
「みわ! どこ!」
いない。いない。
玄関まで来て、目を見張った。
玄関のドアに、血痕が残っている。
まさか、外に出た……!?
でも、さっき部屋に入った時、コートも鞄も置いてあった。
この時期に、上着も着ないで外に出たのか?
コートを羽織って、財布と携帯電話、みわのコートを手に取り急いで家を出た。
「みわ!」
もう日が変わろうとしている。
こんな時間に、薄着でひとりで出歩くなんて。
しかも、酷い怪我をした状態で。
お金は持っていないはずだ。
近くにいるはず。
「みわ!!」
辺りが暗闇に覆われた街を駆け出した。