第60章 お互いの
自分の部屋に入り、ベッドシーツをグシャグシャに乱して暴れた。
「クソ、クソォ……」
シーツの波が隆起するたびに、みわの好きな柔軟剤の香りが舞い、後悔ばかりが胸をかき乱す。
全部受け止めるって、決めたばかりなのに。
黒子っちの話を聞くまでは、比較的落ち着いていられたはずなのに、黒子っちの話になった途端、どうしてあのようになってしまったのか。
また傷つけた。
オレが傷つけたんだ。
ガシャン!
突然、部屋の外からガラスの割れる音がした。
次に訪れたのは、静寂。
何があったんだ?
……でも、今顔を合わせるのが怖い。
嫉妬に塗れた自分が、今度はどんな事を言ってしまうのか、想像もつかない。
「ちっせーな……オレ……」
自分にガッカリだ。
他の男に嫉妬して暴れて。
少し眠ろう。気持ちが乱れた時は寝るのが一番。
冷静になってからではないと、謝ることも出来ない。
幸いにも今日は身体が疲れている。
とにかく今は、気持ちを落ち着けるんだ。
ささくれ立った心でも、眠気は身体を包んでくれ、シーツへ全身が縫い付けられるように自由が奪われていった。
ふと、なんとなく目を開けた。
少しだけ眠っていたようだ。
……まだ朝は訪れていない。
身体の疲れは取れ、少しだけ、気持ちが落ち着いた気がする。
黒子っちの事は……まだ正直、冷静になれるか分からない。
でもとりあえずは謝ろう。
とにかく、酷い事を言った。謝らないと。
恐る恐る部屋のドアを開け、リビングへ向かった。
しかし、リビングにみわはいなかった。
もう部屋に戻ってしまったのか。
珍しく、電気が点けっぱなしだった。
普段、絶対にそんな事はない。
みわの気持ちの乱れが現れているようだ。
ため息をひとつついて、何気なくシンクに目をやってギョッとする。
シンクと、調理台が真っ赤に染まっていた。