第59章 すれ違い
オレの表情が変わったのを感じたのか、みわの顔も強張っている。
「あの、涼太、話してなくてごめんなさい。
ちゃんと話すから。あのね、今日実は」
「いいよ、もう。聞きたくない」
自分でも驚くほどに冷たい声が出た。
「涼太……」
「みわが誰と何処で何してようが、オレには関係ないんだろ。好きにしろよ」
口から勝手に言葉が出て行く。
このままここに居るのは良くない。
部屋に戻ろう。ひとりになりたい。
「待って、涼太」
今更なんだよ。
さっきまで一所懸命嘘ついて隠してただろ。
「オレの心を乱すだけ乱して、やっぱり話しますごめんなさいってなんだよそれ」
「……」
「オレはそんなに都合のいい男かよ。オレと寝なくなったらすぐに他の男か」
思ってもいない言葉が、みわを傷付けるための酷い言葉がどんどん厳選され紡がれて、口をついて出てくる。
誰か、オレを止めて。
みわは顔を真っ白にして、言葉を失っている。
その顔を見るだけで胸が痛くて、頭が痛くなる。
「りょ、りょうた」
ようやく振り絞ったように出たその言葉。
唇が震えている。
「黒子っちに泣きついたら。
"涼太にこんな酷い事言われた〜"って。それで、朝まで慰めて貰えよ」
こんなに自制出来ない事があっただろうか。
あった。
黒子っちとみわがオレの家にお見舞いに来てくれた時だ。
あの時も、独占欲を満たすためだけにオレはみわを攻撃した。
何も、何ひとつ進歩していない自分に嫌気がさす。
黒子っちに関わると、どうしてこんなにも心を乱されるのか。
オレ自身も、黒子っちに変えて貰ったから。
黒子っちが、誰かを変える事の出来る人間だと、分かっているから。
悔しくて、怖くて、こんなにも嫉妬する。
「わ、わたし」
みわが立ち上がったオレを止めようと、震える手を差し伸べてくる。
追い打ちをかけるように香るタバコの臭いに耐え切れず、その手を払った。
「触るなよ!」
ハッとしてみわを一瞬見たが、すぐに振り返ってリビングを出て行った。
あの傷付いた目が網膜に焼きついて離れない。
奪われたくない気持ちが、最悪の方向に暴走してしまった。