第59章 すれ違い
自宅最寄駅に着いて、念のためもう一度電話をかける。
プルルルルルルルル……
繋がった。電源が入っている。
『もしもし、涼太?』
「みわ! 連絡つかないから心配してたんスよ!」
『ごめんね、メッセージ貰ってたのに返信してなくて。今帰って来たところなんだ』
「……あきサンと、楽しかったっスか?」
『うん、楽しかったよ。涼太も、楽しめた?』
「……うん、楽しかった。今、駅だから」
『気をつけてね』
あきサンは、今日会ってないって言ってたっスよ。
オレ、最高に嫌な奴だ。
わざと試すようなことして。
みわは、嘘をついているってこと?
誰に会いに行ってたんスか、こんな時間まで。
オレに、言えないヤツっスか。
「……ただいま」
「あ、おかえりなさい」
微笑んでコタツに入っているみわ。
特に変わったところはない。
「お茶、淹れるね」
そう言って立ち上がり、オレの横を通り過ぎた時にふわりと、でもしっかりと香った。
タバコの臭い。
どこかに行っただけで、こんなに臭いが付く事ってあるだろうか?
いや、そうそうない。
今、街中ではどこでも禁煙禁煙だし、ずっとタバコの臭いがする所なんて、限られている。
高校生で、喫煙可の居酒屋に行くはずないし。
何より、みわは今日、あきサンと会ったとウソをついた。
それは紛れも無い事実だ。
他に、何かいつもと違う点はあっただろうか。
洋服だって、そんなに持ってないはずだ。
オレが買ってあげた服で他の男と会ったの?
ソイツと食事に行った?
ソイツの部屋に行った?
ソイツに抱かれるためにベッドに入った?
最近、オレとはキスすらしていなかった。
それが不満で、他の男に走ってしまったのだろうか。
寂しかったのだろうか。
ぐるぐる、ぐるぐるとそんなことばかりが頭の中を巡る。
一緒にいると手を繋ぎたくなる。
手を繋ぐとキスをしたくなる。
キスをするとセックスがしたくなる。
最近は欲望のままにみわを求めてしまってばかりで、反省し、控えていたのに。
ねえ、みわ。
どういうこと?