第11章 過去
……みわっちと別れた後、やはり心配になって近くを通ったら、彼女の家の前に男が居た。
追い返されると思ったら中に入って行ってしまったから、驚いてドアの前まで駆け寄ったら中の会話が聞こえてきて。
古いアパートだから、玄関の声は丸聞こえだった。
みわっちが当時味わった地獄が、男の口から吐き出される。
それは本当におぞましいものだった。
オレだったら、絶対に耐えられない。
味方が誰もいない中、陵辱され続ける日々。
中学生の女の子が、どうやって今まで自分の心が壊れないよう、生きてきたのか。
いや、もう壊れてしまっていた。
オレと最初に出逢った時の怯え方。
コイツが家に来た事を知った時のあの顔。
怒りで手が震える。
全身の血液が冷えていくのが分かる。
今すぐ駆け込んで殺してやりたい。
でも、様子を伺っていると、なぜかみわっちがわざと男から当時の話を聞き出しているような印象を受けた。
なんの計画もなく家に招き入れるほどみわっちは愚かじゃない。
彼女の思惑を感じて、暫くオレも話を聞くことにした。
握り締めた手から、血が滲んでいた。
どうやら、みわっちは母親に全てを聞かせたかったらしい。
母親も信じてくれたのか、男が狼狽する声が聞こえた。
そこからしばし音が聞こえなくなり……何かが倒れるような音。
嫌な予感がしてドアを開けると、首を絞められて下着を脱がされ、強姦されそうになっているみわっちの姿が目に入った。
時間が、止まった。
彼女の名前を呼んだ記憶はある。
男を引き剥がし、殴っているうちに気持ちが沸騰してきた。
お前が、お前がみわっちを。
殺してやる。殺してやる。
何発目か殴ったところで、男の身体が吹き飛んだ。
怯えきった男は、一目散に逃げ出そうとする。
逃がすかよ。
殺してやる。
待って、というその絶え絶えな声に思わず振り返る。
そこには、青い顔をしたみわっち。
目に涙を溜めて、震えている。
細い首についた絞め跡に、足首まで下ろされた下着。
もう、誰もこの子を苦しめないでくれ。
頼む。お願いだから。
少しでも気持ちが落ち着くよう、優しく、包むように抱き締めた。
同時に、自分の気持ちも落ち着けたいのかもしれなかった。