第59章 すれ違い
「貴女が自分の事を大事にするって言うなら、私も貴女の言う通りに、ああいう関係はもうやめるわ」
「……」
「さ、ゴミ捨て行くんだっけ?」
「……はい」
自分を、大事に?
どうしてこんな私を大事にする必要があるの?
わからない。
私を大事にする、という意味がわからない。
一旦溜まったゴミを捨ててくると、廊下がスッキリしたからか、部屋がとても片付いたような気持ちになった。
洗濯機を回し、さりあさんには小物の分別、私は風呂場とトイレの掃除をしている。
さっきから、ずっと頭の中をグルグル回っている。
私が私を大事にするということ。
何度考えても、その必要性を感じる事が出来なかった。
でも、私がそれをしない事で涼太に迷惑がかかるなら。
さりあさんが間違った関係をやめるなら。
誰かのためになるなら、それも正しい事なのかもしれない。
「……さりあさん、お風呂とトイレ、終わりましたよ」
「わ、メチャクチャキレイ! ありがとう。そろそろお昼にしようか」
「……さりあさん、私、自分を大事にします。だから、さりあさんもああいう事はやめて下さい」
さりあさんは真っ直ぐ私の目を見て、笑った。
「……了解。もうしないわよ。
まったく、貴女がそんなんじゃあリョウタも苦労するわね」
「どういう意味、ですか?」
「これ以上今の貴女に言っても仕方ないかな。さ、お昼お昼。外にでも行こうか」
腑に落ちない。
けれど、これ以上追及してもさりあさんは何も言ってくれないだろう。
困惑しているのを隠し切れずにいると、スマートフォンが振動しだした。
「あ、さりあさん……すみません、電話が」
「いいよー。出なよ」
知らない番号。
市外局番からして県内からみたいだけど、誰だろう。
「……はい」
『神崎さんのお電話でしょうか。こちら、…………』
「え……総合、病院……?」