第59章 すれ違い
「あら、どーしたの?」
さりあさんはあっけらかんとそう言った。
カギを持っているところから見て、恋人? 家族?
こんなに寒いのに薄いジャケット姿だ。
年齢は、20代……半ばくらい?
「いや、近くを通ったから。なんだ、部屋キレイじゃん」
「今ね、この子が手伝ってくれてるのよ」
「あ……お邪魔しております」
雰囲気からして、彼氏さんだろうか。
私、退散した方がいいかな。
男性は部屋に上がり、スタスタと廊下を歩いてきて、私の横で一旦立ち止まる。
「へえ、若いね。今日はこの子でいいけど」
グイッと二の腕を引かれる。
凄い力だ。
「な、なんですか!?」
「ちょっと、その子はやめてよ」
「あぁ?」
な、なに?
なに? このひと?
「……じゃあお前でいーや」
パッと私の腕を掴んでいた手が離れ、男性はさりあさんの肩に腕を回し、奥へ歩いて行ってしまう。
「さりあさん……どなたですか?」
「誰って言われると……誰?」
「お前、俺の名前知らねーだろ」
「知らないや」
待って、なにこの会話。
「まあ、利害関係が一致してるオトモダチ? ってとこかな。アンタもだろ?」
「何……」
「ローションある?」
「あるよ」
ふたりは何てことない空気でベッドルームへ入って行った。
え?
ちょっと待ってよ?
じゃあ、今のは恋人でもないってこと?
慌ててベッドルームへ駆け込む。
既に、ふたりは下半身だけ衣服を脱いでいた。
「ちょっと……いきなり、痛いんだけど」
「我慢しろよ」
「ちょっと待ってください!」
混乱した頭で、さりあさんの上に乗っている男を突き飛ばす。
「ってえな、何すんだよ!」
「さ、さりあさんは! もう、こういうことしません! 帰ってください!!」
「みわちゃん?」
「帰って! 帰ってよ!!」
ベッドに転がっている合鍵をさっと隠した。
「なんだコイツ……」
「……悪いね、今日は帰ってくれるかな」
「あぁ?」
「帰って」
「け、警察! 警察呼びますよ!」
「……あぁ?」
ジロリと睨まれる。
私はもう蛇に睨まれたカエル状態。
怖い。怖い。
「……チッ、シラケる」
そう言って、男性は部屋から出て行った。