第59章 すれ違い
「ちょっと散らかってて悪いけど」
Sariさんがそう言って部屋のドアを開けると、あまりのタバコ臭さに思わず噎せた。
「げほっ! げほっ! さ、Sariさん、窓! 換気扇!」
「ん? あ、臭い? ごめんねえ」
玄関に通される。
どうやらこの部屋は単身者用の1LDKのようだ。
涼太の部屋とは造りがまるで違う。
Sariさんが窓を開け換気扇をつけると、ようやく滞った空気が流れ、開け放した玄関のドアからも汚れた空気が少しずつ出て行った。
「ねえ、さりあって呼んでよ」
ズイッとキレイな顔で寄られると、その迫力にたじろいでしまう。
「ど、どうしてですか?」
「仕事中じゃないから」
「……わ、わかりました……」
それにしたって……
"ちょっと散らかってる"っていうレベルではないような気がしている。
これは……この間雑誌で特集されていた『汚部屋』!?
でも、見習いたいモデルのプライベートルームっていうページには、確かSari……さりあさんの部屋が載っていたような……。
「……言いたい事は大体分かるけど。
あんなプライベートルームなんて、セット作って貰ってるだけだからね」
「ええッ!!」
「いや、ちゃんと撮影の為に掃除する子もいるよ? あたしはそういうのしないってだけ」
「そ、そうなんですか……」
やっぱり、モデルさんって色々ストレス溜まるんだろうな……。
それにしたって、床が見えないんだけど……。
「何飲む? コーヒー? 紅茶?」
どこで! どこで飲むんでしょうか!
立ち飲みでしょうか!?
「あっ、あの! さりあさん! お茶はいいので、この間のお礼にお掃除……させて貰えませんか?」
「えぇ? いーよ。今キレイになってる方だし」
「いやいやいや、こんな所にいたら病気になりますよ!?」
「……結構、ハッキリ言ってくれるじゃない……」
そうなったら、俄然やる気が出てきた。
大掃除は大得意だ。
マスクを装着し、ゴミ袋を片手に大掃除を始めた。