第59章 すれ違い
1月31日。
今日は黒子くんのお誕生日会。
都内で午前中から集まるから、
涼太は朝早くから移動だ。
この時期の朝方は益々冷える。
冷え性の私には本当にツラい季節。
「みわ、寒いから見送りなんて良かったのに」
ポストに郵便物を取りに行くついでに、エントランスまで見送りに出てきた。
涼太にくっついていると、少しあったかい。
……風除けにしているわけじゃないよ。
手を握って、涼太の左ポケットにお邪魔している。
「いってらっしゃい、楽しんできてね」
ポケットに入れていた手をすっと抜いて、涼太に手を振る。
「帰る時連絡するね! あきサンによろしく!」
長い足の持ち主である涼太は、あっという間に見えなくなった。
ふうとため息ひとつ。
今日はどうやって過ごそうかな。
実は、あきとは約束なんてしていない。
皆で周りを気にする事なく楽しんでもらいたいから、咄嗟に嘘をついてしまった。
皆の空気を壊したくない。
後で、写真でも見せて貰えれば十分だ。
……あ、いってらっしゃいのキス、最近してないな。
……結局あれから、一度もそういう行為はしていない。
あれだけ毎日のようにキスもセックスもしていたのに、一度しなくなると、どうしたらいいのか分からなくなってしまう。
……思えば、きっかけもいつも涼太任せにしていたんだなあと思う。
涼太には、その気がなくなってしまったんだろうか。
この間あんな事があって、もうしたくなくなってしまったのかもしれない。
少しだけ重くなった気持ちで振り返ると、ポストの所に見知った顔が。
「あ、Sariさん。おはようございます」
「あらおはよう。今日は別行動?」
「ハイ」
「良ければうちでお茶でもしない?」
「え、いえ、大丈夫です。お気になさらず」
「……この間のモデルの件、ちゃんとお礼言いたいって言ってなかったっけ?」
「……うっ」
「なあんだ、アレは社交辞令かあ、残念」
「……じゃ、じゃあ一杯だけ、お邪魔します……」
なんだか面倒臭い事になった……。