第59章 すれ違い
「黄瀬君、お疲れ様。
鍛えるなら、昨日・今日と行ったトレーニングを行い、2、3日休養を取る。
筋肉の超回復を利用して、効果的に鍛えるべきだ。
まあ、中長期的な目で見ても、マネージャーちゃんの言う事を聞きながら今まで通りにやるのが一番だよ」
「アリガトウゴザイマシタ」
「いやいや、素晴らしい後輩に教えることが出来て、非常に満足しているよ」
今日、会話の中で初めて知ったことだが、この男はバスケの元日本代表選手らしい。
確かに、身長はオレよりも低いとはいえ、鍛え抜かれた素晴らしい肉体。
豊富なバスケの知識。
なぜ引退したのかは聞いていないが、トレーニング中にバスケのプレイについても聞けたのは非常に良かったと思う。
思ったよりもこの2日間、充実していた。
「じゃあ俺は帰るけど、マネージャーちゃんにこれ、渡しておいてくれないかな」
そう言って受け取ったのはマクセサンの名刺だった。
「優秀な子は大歓迎だよ。いつでも連絡待ってるって言っておいて」
「……ハイ」
……コイツ手が早そうだな、と感じたことは伏せておくことにする。
「う……」
極限まで鍛えようとした身体は、ギシギシと軋んで早くも筋肉の痛みを訴えてきている。
「だる……」
まだみわたちが戻ってくるまでにはだいぶ時間がある。
他の部員たちは皆帰ってしまった。
部室か体育館で待っているつもりだったが、先に家に帰った方が良いのだろうか。
しばし考えて、やはり先に帰って風呂を済ませてしまった方がいいと判断した。
みわには会いたくて仕方がないが、それでここにずっといるのはかえって叱られてしまうと思う。
スポーツ選手として出来るケアをして、みわの帰りを待とう。
みわにメールをしておく。
何十倍にも重く感じる鞄を抱え、帰路に着いた。