第59章 すれ違い
遠征2日目は、午前中にいくつか練習試合を行い、午後にはミニゲームを含む、合同練習となった。
他校の練習というのはやはりとても新鮮で、マネージャー同士、連絡先の交換や情報交換も出来て、非常に有意義な遠征となった。
日がとっぷりと暮れてから、バスに乗り込む。
行きも帰りも、隣は中村先輩だった。
席に着き、早速ノートを取り出す。
移動時間を使って、少しでも進めておきたい。
そして、涼太と過ごす時間を少しでも……。
「……神崎、寝たら」
呆れた顔でこちらを見る中村先輩。
そういえば、去年の合宿でも笠松先輩に同じように言われたな。
なんだか少し懐かしくなり、微笑んだ。
「いえ、大丈夫です。
お気遣いありがとうございます」
「……目の下のクマ、凄いよ」
「……えっ……」
その恐ろしいご指摘に、鞄から小さい鏡を取り出して目元を確認する。
「……う」
酷い。
これは、酷い。
目の下が、真っ黒だ。
昨日、ノートをまとめるのにほぼ徹夜になってしまったからだろうか。
……いや、ほぼ徹夜になったのは、ノートのせいじゃなくて、作業の合間合間に涼太の事を考えてしまったからなんだけど……。
いや、でもそれにしたって朝、鏡を見た時はこんなじゃなかったはず……。
夕方になって疲れが出てきて、更に目の下が黒くなってしまったんだろうか。
どうしよう……。
ショックを隠し切れない。
「……寝たら」
私のうろたえっぷりに中村先輩が笑っている。
「いえ……やっぱり、もう少し頑張ります……」
「黄瀬に借りたら。目元が黒くなくなるやつ」
「そんなのあるんですか?」
「いや、分かんないけどアイツそういうの持ってそうってイメージなだけ」
「あはは、黄瀬くん肌キレイですもんね」
……あははじゃないよ。
全然笑っていられないよ、むしろ私が笑われるよ。ピエロだよ。
でもやっぱり、今のうちにできるだけ進めておきたい。
……バスの揺れが心地良く……感じても
負けるわけには……いかない……
…………
結局、発車わずか30分で爆睡してしまった事に気付くのは、もう少し先。