第59章 すれ違い
「わっ、わたしも……」
突然携帯の向こう側から聞こえた甘すぎるそのセリフに、耳まで熱くなるのを感じる。
"好きだよ"
その一言で、泣きそうになってしまった。
『みわは今、何してんの?』
「あ、もうやる事は終わったから、ノートをまとめてから寝ようかなって」
テーブルの上にちらりと目をやる。
各部員のノートだ。
これを全てまとめるには、かなりの時間がかかるだろう。
声が聞きたい。
そう思って、つい電話を掛けてしまった。
気まずい関係になっていたわけではないけれど、以前のように肌の触れ合いがなくなって、こころの距離まで出来てしまったように感じていた。
『そっか、まとめんのも結構時間かかるでしょ。無理しないようにね』
涼太は、私が毎日のようにこのノートに時間をかけている事を知っている。
ひたすら黙々と作業に没頭していると、気がついたらカップのお茶が新しくなっていたり、お皿が洗ってあったりする。
完全に自己満足でやっていることなのに、
彼の優しさが、嬉しかった。
『そう言えば、トレーナーの人がみわの事を褒めてたっスよ』
「えっ? 私の事を?」
『普段からの鍛え方がいいって。
メニュー作っている人間が素晴らしいってさ』
「え……」
非常に照れ臭い……けど嬉しい。
いつもいつも、未熟ながら色々な事を調べて考えているメニューだ。
『ありがとう、みわ』
「え?」
『みわがいなくなると、こんなにもオレは支えて貰ってたんだなって実感する』
「そ、そんな、当たり前の事をしてるだけだよ」
『会いたいっス、今すぐ』
今日の涼太はどうしたんだろう。
いつも、比較的ストレートに気持ちを伝えてくれるタイプだけれど、今日はいつにも増して……。
『会いたい』
その声に、眩暈すら覚えた。
「あ、明日、会えるよ」
また、嫌な返し方。
本当は私だって、私だって。
『そっスよね……ハハ』
だって、そうじゃない。
毎日、今朝だって一緒にいた。
明日になればまた同じ部屋に帰る。
一緒にいられるもん。
別に、一晩離れてるの位、なんてことない。
なのに
こんな気持ちになるのはどうして?
「私もあいたい……涼太……」
大粒の涙と共に、ぽろりと零してしまった。