第59章 すれ違い
突然予定に入れられた、宿泊遠征。
よりにもよってオレは留守番。
バスに乗り込んでいくみわとメンバー達を見送り、運動部専用のトレーニングルームへ移動する。
「黄瀬君、おはよう。マクセです、宜しく」
「まく……?」
結局、何度聞いても名字を覚えることができず、最悪の初対面になったわけだが。
厚手のトレーナーを着ているにも関わらず、その下に隠された隆々とした筋肉の存在を感じる。
スポーツトレーナーだけに。
誰かを思い出す。
みわが言っていたけど……誠凛にダジャレ言うヒトいたよな……。
そんな感じでしょっぱなから全く集中していないオレ。
「黄瀬君、服を脱いで貰っていいかな」
そう言われ、ジャージを脱いで下に着ているタンクトップのみになった。
オレの身体を上から下までジロジロ眺めたトレーナーは、目を見開いて一言、
「素晴らしい素材だね」
と嬉しそうに言った。
「しかしここまできちんと鍛えてあるのは流石だね。
普段はどこのジムに通っているんだい?」
「特に行ってないっス。この部屋でやってるんで」
「なるほど。トレーナーがこちらに来る形をとっているんだね」
「いや、トレーナーとかいないっスよ。マネージャーに面倒見て貰ってるだけなんで」
「……なんだって?」
「マネージャーがメニュー組んでくれて、オレは必死にそれを消化するだけっス」
みわのメニューは、オレの性格まで知り尽くした完璧なものだと思う。
筋肉についていつも色々説明してくれるけど、多分彼女の半分も理解出来ていない。
「大したもんだな、その彼に宜しく伝えておいてくれ」
「彼……って、ウチのマネージャーは女の子っスけど」
「女子マネージャーなのか!?」
さっきからいちいち驚いて、なんだか面倒臭そうな人だな……。
「そうっスよ。今日は遠征について行ってるんでいないんスけどね」
バス、みわは誰の隣に座ったんだろう。
ああ、どうでもいいことが気になる。
「そうか……素晴らしい。是非一度、話を伺いたいものだね」
彼は興奮を抑えきれない様子だ。
みわって、あんなに謙遜ばっかしてるけどやっぱり凄いんスねぇ……。