第59章 すれ違い
「来週末、遠征ですか?」
武内監督からの突然のお話に、思わず聞き返してしまう。
こんな時期に、遠征なんて。
「遠くまででしょうか」
「いや、隣だよ。静岡だ。
だが、2日間日帰りにするには、少し遠い。
あちらさんが準備してくれる宿に1泊する予定だ」
1泊……
「こんな時期に珍しいですね」
「なんだか色々ワケありみたいでな。
うちもシーズン中は練習試合の相手になって貰ったり、遠征して来て貰ったりしているからな、まあ持ちつ持たれつというところか」
「分かりました。メンバーは1軍のみですか?」
「黄瀬は置いていく」
「えっ、それでは私もこちらに残って、彼のトレーニングでしょうか」
涼太を置いての遠征なんて、今まで一度もなかった。
「いや、その2日間、プロのトレーナーを頼んである。黄瀬の事を話したら大層乗り気でな」
「そう……ですか……」
「神崎、お前は新体制での分析を頼むぞ。
来年は今のメンバーで優勝を目指さなくてはならないんだ」
「……承知いたしました」
最近、一緒に過ごす時間が極端に減っていた。
更に、来週末の遠征。
……仕方がないことだけれども。
「ええっ!? カントク、オレ置いてきぼりっスか!?」
案の定、涼太から不満の声が漏れた。
「プロに2日間みっちり鍛えて貰えるんだ、集中するんだぞ」
「……マジっスか……」
恨めしそうに監督を見る涼太だけど、監督は一度決めたら頑として動かない。
3年生の抜けた穴はやはり大きい。
今年こそ、悲願を果たすために私たちが頑張らなければならない。
新チームで他校と試合ができるのは、非常にありがたい。
練習中では分からない微妙なズレが、接戦となっている試合中に大きな影響を及ぼす。
まずは夏までにそのズレを修整する必要がある。
新しいチームでの調整と、他校戦力の把握。
夏までに、時間がどれほどあっても足りない。