第59章 すれ違い
その日、食事が終わり、いつもの勉強会を終えて部屋に戻ろうとすると、神妙な面持ちの涼太に引き止められた。
あれから、彼に抱かれていない。
時々また一緒のベッドで眠ることがあるけれど、キスをはじめ、触れ合う事はなかった。
また、この間の出来事についても、お互い敢えて触れようとはしなかった。
「みわ、昼間の事……ここを出て行くつもりなんスか」
正直、迷っている。
あんな噂が立っている以上、何がきっかけで涼太に迷惑がかかる事になるか分からない。
「う……ん、ずっとここに居るわけにはいかないかなって、思ってはいる」
「どうしてっスか……!」
「やっぱり、私たちまだ高校生だし。
ちゃんと、責任が取れる大人になってからかなって、思うんだ」
「みわは、お祖母さんのところに行くつもりなの?」
「うん、それか女子寮が空かないか、相談してみるつもり」
「……ずっと一緒に居たいのは、オレだけっスか……」
そんなわけないじゃない。
同じ気持ちに、決まってるでしょ。
「……今はちゃんと、涼太との事を考える時期かなって」
「別れるかどうかってこと?」
涼太の綺麗な目が不安に揺れている。
この人の意外に臆病な一面。
「そうじゃないけど……」
「けど、何?」
「……うまく言えない」
涼太に愛されれば愛されるほど、幸せを感じれば感じるほど、不安になる。
だって、私にはなんにもない。
なんにもないのに、涼太はそれでも隣に居ていいって言ってくれている。
でも、それに甘えたくない。
私は私で、胸を張って涼太の隣に居られるように、なりたいんだ。
「……とにかく、オレは反対っス」
それに、一緒に居ると、触れたくなる。
触れて欲しくなる。
どんどん貪欲になって、涼太に溺れて、ダメになってしまいそうで、怖い。
私はもっと強くならないとダメなんだ。