第59章 すれ違い
「神崎」
「私は、黄瀬くんとお付き合いしています。それで、彼の家に……お邪魔する事が多いだけです」
「そうか、まあお前がそう言うのなら、そうなんだろう」
「はい、そのような事実は一切ありません」
「じゃあお前の家はこの書類にある住所で間違い無いんだな?」
担任が差し出した書類に記載されていたのは、ひとり暮らしをしていた時の住所だ。
「いえ……今は、祖母の家に住んでいます」
「そうか、じゃあこれも修正しておいてくれ」
「はい。それでは、失礼致します」
もう話す事はない。
くるりと踵を返した。
「黄瀬、神崎」
「……なんでしょうか?」
「分かっているとは思うが、お前たちはこの学校にとって、今やなくてはならない存在なんだ。こんな事をお前たちに言うのは間違っているかもしれんが……節度ある行動を頼むぞ」
「……はい」
「みわ! なんであんなこと言うんスか! ハッキリ言ってやれば」
涼太は資料室を出るなり、納得いかない表情で噛み付いてきた。
「こんなこと、公にしたって良い事は何もないよ。表面だけでも、そうじゃないって伝えないと」
「……オレのせいっスか」
涼太は、自分の影響力を過小評価しすぎているきらいがある。
容姿端麗、モデルをやっていて、更にバスケ選手としても類稀なる天才だ。
海常がウィンターカップベスト4に入った事で、マスメディアからの注目はうなぎ登り。
バスケ雑誌だけではなく地方紙なども頻繁に賑わせ、彼のファンは増える一方。
彼が好きで、または彼とバスケがしたくて海常への入学を考える新入生がごまんといるのだ。
学校側としても、最強の広告塔を失いたくないのだろう。
涼太はそんな周りからの評価は大して気にしていないようだけれど、彼が悪く書かれるような事は、私も我慢できない。
彼のマイナスになるような事を、一切認めるわけにはいかない。
「涼太のせいとかじゃないよ。分かるでしょう? 大人の事情」
「……みわ、ウチを出て行くんスか」
「……」
そんなひととずっと一緒に居られるなんて、甘かったんだ。