第59章 すれ違い
さて、どうしよう。
毛布と布団は涼太に掛けてきてしまった。
いつもの涼太のベッドで使用している掛け布団はサイズが大きい。
この小さな敷き布団では余りすぎるというか……。
でも何もないよりはずっといいか。
涼太の部屋に入り、柔らかい布団を拝借した。
黒子くんに借りた小説を寝る前に読もうと楽しみにしていたけれど、とてもそんな気分じゃなくなってしまった。
今日はとにかく寝よう。
何も考えないようにと布団にくるまると、いつもの涼太の匂いに包まれた。
涼太との事でこんなにぐちゃぐちゃの気持ちになっているのに、この香りにはこんなにも胸がときめく。
大好きな人の大好きな匂いが、不安な気持ちを和らげてくれるようだった。
布団、借りて良かった。
「黄瀬、神崎、職員室まで」
翌朝、ホームルームが終わると、担任が私たちを職員室に呼んだ。
涼太にも心当たりはないようだ。
ふたりで顔を見合わせて、首をかしげた。
「ちょっとふたりとも、こっちに来なさい」
職員室にと呼び出されて行ったのに、担任は更にそこから教材資料室へと私達を連れて行った。
「この写真に、心当たりはあるか?」
A4の紙に印刷されているのは、マンションのエントランス前で私達が手を繋ぎ、マンションに入ろうとしている姿だった。
手には、買い物袋。
いつの写真だろう。
「……いや、ないっス」
「これは黄瀬のマンションだな」
「ハイ」
「この写真と共に、文書が送られてきた。お前と神崎が同棲しているという内容だ。まあ、こんなものは悪戯だと思ってはいるが、そういう情報がある以上は確認しなくてはならなくてな」
「……そっスか」
「まあ、もしそうだとしても双方の親御さんが許可しているなら、私達学校から何か言える事は無いわけだが。……しかし黄瀬、お前としてもこう言った噂が流れるのはモデルとしても、選手としても良くないだろう」
「別にオレはそんなのどうでもいいっスけど……」
「学校としても、こう言った問題が話題に上がるのは困る事なんだ。どうなんだ? 実際は」
「いや、まあ……」
「同棲なんて、していません」
私は遮るようにきっぱりと言い放った。