第59章 すれ違い
「……涼太、どうかしたの?」
「ううん、どうもしないっスよ」
口調はあくまでもいつも通り。
「濡れた制服、早く着替えないと風邪……」
冷たくなった手が、スルッと私の制服のスカートの中に潜り込んできた。
「つめた……って、え?」
両手はさわさわとお尻を撫で、そのままショーツを下ろす勢いで太腿を撫で始める。
「涼太!」
涼太は一体何を考えているのか。
「涼太、ふざけてないで先に服脱がないと」
特に足元がびしょ濡れだ。
涼太は脱ぐ気がないのか、先程から聞いてもいない様子であちこちを触っている。
全く、何をふざけているんだろう。
「もう、涼太!」
仕方ない、とりあえず脱げば寒くて移動しようとするよね。
雨に濡れた上に、玄関は寒いんだってば!
ちょっと勇気がいるけど、ベルトをカチャカチャと外して、スラックスを下ろす。
「ほらもう、乾かさないといけないんだからお風呂に行って?」
もうかなりお湯も溜まったはず。
髪を洗っている間に入れるようになるだろう。
でも、シャツにトランクスというなんとも言えない格好にされても、涼太は全くその場を動こうとしない。
「涼太!」
胸元をばんばん叩いてアピールすると、ようやく靴を脱いで廊下に上がった。
本当に、どうしたというの。
まるで言う事を聞かない子どもだ。
「いつまでもそんなんだと、怒るよ、もう」
のろのろと歩みの遅い涼太の背中を押して洗面所まで連れて行こうとすると、涼太はその途中で自分の部屋のドアを開けた。
「なんか取りに行くもの、あるの?」
自分で脱がしておいてなんだけど、その格好でずっといるのも風邪引いちゃうから、とにかく今はお風呂に入って欲しい。
流石の私もちょっとイラっとしてしまった。
「涼太、子どもじゃないんだから、ちゃんと言う事聞いて?」
自分もコートを脱ぎながらそう言った瞬間、こちらを振り向いた涼太と目が合った。
やはり、いつもの琥珀色の瞳には輝きがない。
なんだかとても疲れているみたい。
「ねえ、疲れているんでしょう? 早くお風呂に入って、寝たほうがいいよ」
同じくハンガーにコートをかけて、自分の部屋のドアノブにかけていたら、ふわりと身体が浮いた。
え?