第58章 すべて受け止めて
「涼太、ありがとう」
風呂洗剤の棚の前で、突然みわがそんな事を言うもんだから。
「ん? なんスか?」
「お花……買ってくれて」
みわは先ほどから大事そうに花を抱えている。
「そんなんで良ければいつでも買ったげるっスよ。気にすることないのに」
別に、何万もする花束を買ったわけじゃないし、オレが買ってあげたいから買っただけだ。
「だって、涼太の大事なお金だもん……」
そう言って袋の中を覗き込みながらまた大事そうに持ち直す。
みわはこんな些細な事でも、そうやって嬉しそうにしてくれる。
そんな彼女の頭をくしゃっと撫でると、くすぐったそうに頬を緩めた。
『黄瀬君、これ買って! 欲しいなぁ、あの雑誌に載ってたやつ。ね、バイト代出たんでしょ?』
そんな事を言う女ばかりだった。
何も求めて来ない女なんていなかった。
彼女らに必要なのは完璧な『黄瀬涼太』だから。
みわにはなんでもしてあげたいと思う。
喜ぶ顔が見たい。
「涼太……お願いなんだけど……」
「うん、なんスか? なんでも言って」
「この洗剤……お徳用のを買ってもいい?」
ぶっ。
吹いた。
「あ、ダメならいいの」
「いや、いいよ、買おう。そうじゃなくて……お願いっていうから、もっと違うのを想像したんスよ……」
「だって、重たいよ? まだ入浴剤も買わなきゃいけないんだし……」
「なんでも持つから大丈夫っスよ。好きに買いな」
本当に、この子はもう。
何十キロでも何百キロでも持つっスよ。