第58章 すべて受け止めて
流石にもう年始の空気は薄れ、シャッターを下ろしていた店も開店し、商店街は普段通りを取り戻しつつあった。
今日は電車に乗って移動したりはせずに、近所で必要なものだけ買う予定。
既に朝一番でスーパーでの買い物は済ませた。
みわがドラッグストアで洗剤やシャンプーなどをまとめて買っておきたいというので、一度荷物を置いて、再度出てくることにする。
近くに様々な店がある駅前というのは、やはり便利だ。
ふと、ドラッグストア前に、新しく花屋が出来ているのが目に入った。
「みわ、あそこって前はなんのお店だったっけ?」
「あー……なんか、お惣菜売ってるお店だったかな」
「キレイだね。見て行かないっスか?」
「うん、行く、行く」
店では開店セールをやっていた。
「みわ花好きそうなのに、そう言えば家には置かないっスね」
「そうだね。おばあちゃんちにもなかったし。……好きなんだけど」
「なんか買ってく?」
「え、いいの?」
パッとみわの表情が明るくなる。
この顔、本当に可愛いな。
「お花ってちょっと高いから、贅沢品なの」
花くらい、いつでも買ってあげるのに。
ぐるっと見渡したけれど、オレが想像していた花は置いてなかった。
「あ〜、あの花ないっスわ……みわに似合うと思ったんだけど」
「なんてお花?」
「……やべ、名前分かんね……」
「時期じゃないのかな?」
「そうかもしんないっスねぇ……」
「また、春になったら出てくるかもね」
その頃になっても一緒にいるっスよね?
そんな情けない事を言いそうになる。
「あ、みわこれカワイイ」
なんとなく、みわに似ている花だなと思った。
白くて、儚げで、でも可愛い。
「わ、クリスマスローズだね。可愛い。この子にしようかな」
「いいんスか? そんな簡単に」
「うんいいの、ピンと来た子にするの」
みわは白い花をつけた小さな苗をくるくる回して楽しそうに見ている。
小さな鉢と合わせて、買うことにした。