第57章 透明な君
私の両手を押さえているせいで、相手は片手だ。
動いていれば、逃げられる。
諦めるな!
そう信じて、激しく下半身を動かしながら上半身だけでドアに近付くよう動き続けた。
「待てよこの……!」
「んんぅ!」
その時……立て付けの悪い木の扉がガタガタと開く音がした。
「みわ!?」
それは、ずっと聞きたかった声。
入ってきた人影に目をやると涼太が……居た。
「わっ、ビックリした……き、黄瀬君、どうしたのこんな所で」
涼太……来てくれた……!
「それはこっちのセリフだよ……何してんだ」
「ん、ふぐ」
突然現れた涼太に気を取られているうちに、イモムシのように這って逃げようとしたら腕をさらに捻りあげられた。
「ヴゥ」
「みわっ!」
涼太が近寄ってくると、締め上げられていた腕が解放される。
不自然な方向にひねられていたので、痛みですぐに元通りに戻せない。
更に口を塞いでいた布を取ってくれた。
散々暴れたせいで身体に力が入らず、顔はみっともなく床についたままだ。
「は、はぁ…っ、涼太……」
「ごめんね黄瀬君……実は俺……いや俺たち、ずっとこういう関係だったんだよ」
「はぁ?」
「だから悪いけど向こうに行って……がっ!」
鈍い音と共に、壁に激しくぶつかる音。
何が起きているのか、すぐには確認が出来ない。
「……みわはオレの女だ。ふざけた真似してんじゃねーよ……!」
涼太が、人を殴っている。
頭に流れた危険信号に反応して、涼太の足にしがみついた。
「だ、だめっ! 涼太!!」
暴力はダメだ。絶対に。
それに、今回弱みを握られたのは完全に私のせい。
「やめてっ! 私も悪いの……!」
「みわっ!?」
「お願いっ! 暴力はやめて……!」
「……クソッ」
「……お、俺は誘惑されたんだからな! 入れて入れてってビショビショに濡らしやがって、この尻軽淫乱女が!」
「……テメー、もう一度言ってみろ」
「りょうた!」
私が足にくっついているせいで涼太はそれ以上動く事が出来ず、チッと舌打ちした。