第57章 透明な君
不自然にガタガタ音のする部屋、微かに呻くような声が聞こえ、一瞬ドアを開けるのを迷ったが思い切って開けて正解だった。
スカートを捲られ、尻が露わになったみわがそこにはいた。
なんの悪夢か。
……間に合ってよかった……。
でも。
「なんで止めるんスか……! あんなヤツ何発殴ったって足りねぇ! 殺してやる!」
「だめ……! っ、いた……っ」
「みわっ! 痛む!?」
「だ、大丈夫……っ」
力ずくで押さえられたせいで、肩を痛めてしまったようだ。
「みわ、……そもそもなんでこんな所に?」
テーブルの上にはクリアファイルが置いてある。
これのせいか…?
「み、見ないでっ!」
肩の痛みも腕の痛みも忘れたように、みわはクリアファイルを奪い取った。
抱きしめてやりたいのに、みわの行動ひとつひとつに距離を感じさせられる。
「りょうた、大丈夫だから、お願い、お願い……」
震える身体で懇願する姿に、殺意は丸ごと呑み込まれてしまった。
傷付いたその姿に、胸が痛む。
「……みわ、帰ろう」
殴り飛ばした男に侮蔑の視線を投げ、部屋を出た。
帰ろう。
一刻も早く家へ。
「あ、黄瀬君遅かったねー! 料理来たよ! コッチコッチ!!」
オレは自分とみわの荷物を手に取り、入り口に向かった。
「あれ? 黄瀬君帰るの?」
一瞬場が静まる。
「……みわはオレの女です。みわに手を出す奴は、どいつだろうと……許さない」
呆気に取られているみわの肩を抱いて店を出た。
黄瀬が去った後の店内では、女子がみわを羨ましがり、悲鳴を上げ、悶えた。