第57章 透明な君
服を身に付け、鞄に入れておいたペットボトルの水を飲んでいると、マネージャーが呼びに来た。
スタジオに戻ると、既に監督と話をしているみわの姿が見える。
「お、黄瀬君。お疲れ様」
「……っス」
「んじゃ流そうか」
1枚ずつ撮った写真が画面上に表示されると、感嘆のため息が聞こえる。
「黄瀬君、ひとりの時も素晴らしかったけどこのふたりの写真はそれ以上だった。得意なの? こういうの」
「いや、ほとんどやったことないっスね」
それは、オレが凄いわけでもなんでもない。
オレは、みわの身体のどこがどうなった時が美しいか、分かっているというだけだ。
「あ、この写真いいよね、顔は写ってないんだけど、なんか」
女性のスタッフ達が分かる分かる、と同意している。
ふたりが指を絡ませ、握っている手のアップの写真だ。
握る角度、力の入り具合などで何故か、手だけしか写っていないのにふたりが求め合っているのが分かる写真だった。
さっきまではこんなに近くにいたのに……。
結局それから何時間も打ち合わせは続いた。
結局、キービジュアルはそれぞれ、相手の肩口から顔を覗かせている写真を上下に2枚繋げる形で作るらしい。
「これはどうしても使いたい」
と言う監督の要望で、みわが承諾し、彼女がオレの胸元に唇を這わせながらカメラ目線の流し目をしている写真も使われることになってしまった。
みわが他人の目に晒されるのは落ち着かない気持ちだった。
けれども、出来上がった写真は驚くほど綺麗で。
先ほど、この美しい瞳を涙で濡らした自分は本当に大馬鹿者だと思う。
みわがオレから離れていくのが不安で、レイプ紛いの事をした。
あんなに乱暴に触れるのは初めてだった。
まだ、手に柔らかい胸の感触が残っている。