第10章 接触
1人の帰り道は久しぶりだ。
最近は黄瀬くんが心配して、ずっと一緒に帰ってくれてたから。
スーパーで食材を少し買って、帰路につく。
冷蔵庫、空っぽだった。
アパートの前に着いた。
一応、周りを見渡す。
ホッと一息ついて、ドアの鍵を開けた。
玄関に入って、スーパーの袋を置く。
ドアを閉めようとした瞬間、突然強い力で外側に引かれた。
「!?」
「みわちゃん……やっと会えたよ〜ヒトリで帰ってくるの、久しぶりだね」
嫌らしい目つき、わざとらしい猫なで声。
背筋が凍った。
ヤツだった。
ちゃんと周りは見たのに……つけて来られてた……!?
ドアを閉めようと引っ張るが、だめだ、ヤツの力の方が全然強い。
「やめて! 来ないで!」
「つれないこと、言わないでよ。ぼくたちの仲じゃない」
「本当にやめてください! やだ! あなたとはなんの関係もない!」
「……なんの関係もない? じゃあ、あの背の高いカレシにぼくたちのこと、話してもいいってことかな?」
「な……」
「だってそうでしょ、何の関係もないなら、何言ったって大丈夫だよね。なんなら、ここで大きな声で話してもいいんだよ?
ぼくたちが、何をしてたか」
「そんな事して……こ、困るのはあなたも同じでしょう」
「いや全然? 元カノとの話をするだけだし?」
「あ、あなたの彼女になった覚えはない!」
「強情だなあ〜何度も肌を重ねた仲じゃない」
やめて。やめて。やめて。
「やめて、本当に、来ないで! 帰って!」
「今、バスケ部でマネージャー頑張ってるんだって? すごいね、勉強も一番みたいだし、ぼくの自慢だなあ」
「どこで……そんなこと……」
「ちょっとその気になれば、オトナはなんでも調べられるものだよ」
私の家だって知っていた。
「ぼくたちのこと、部の皆が知ったらどうなるかなあ? 今まで通り、仲間として仲良くやってくれるかな?」
皆の顔が浮かんだ。優しい皆の顔。
あの笑顔が、軽蔑した眼差しに変わったら……
「……卑怯者……何が目的なの……」
一際嫌らしい顔で嗤ったヤツは、ニヤニヤしながら嬉しそうに喋り出した。
「いや、なんてことはないよ、今まで通りの関係を、また始められればなーんの問題も。……分かるでしょ?」
ヤツの手が、私の頬に触れる。
気持ち悪い。やめて、やだ……