第10章 接触
夢中で柔らかい果実のような唇を貪っていると、携帯のアラーム音が鳴り響いて、ふと我に返った。
もう家を出なければ、遅刻だ。
別にオレは構わないけど、みわっちはちゃんと行かせないと。
「みわっち、残念だけど、時間っスわ……」
「……ありがと……もう、大丈夫」
「え」
潤んだ瞳は、どこかすっきりしたような。
「ごめんね、わがまま言って。……続きは、IHが終わってから……」
みわっち、続き……って。
意味分かって言ってるんスよね。
続き……
ああー悶々とするっスわー!
黄瀬くん、応えてくれてありがとう。
言えた。めちゃくちゃ恥ずかしかったけど、言えた。
自分がしたいこと。して欲しいこと。
どう思っているか。何を感じているか。
今まで遠慮して、自分のしたいことを相手に求めるということができなかった。
いつも適当に、イエスイエスで、自分の意思なんてなかった。
私、変われるかもしれない。
そのためには、もっと強くならなきゃ。
夕方部室に行くと、皆心配して声をかけてきてくれた。
ゆっくり寝たし、ご飯もちゃんと食べたし、バッチリだ。
まだちょっとふらつくけど。
黄瀬くんは、朝練に出ていない分、残って練習していくとのことだった。
「えっみわっち、先に帰るんスか?」
「うん、ちょっと今日はやりたいことがあって」
「じゃあオレももうあがろうかな」
「いいのいいの! まだそんなに遅くないし、大丈夫!」
「……ホントっスか……ホントに大丈夫?」
「ホントに大丈夫!」
黄瀬くんは、かなりの心配性なのかもしれない。
その表情から、かなりの心配ぶりが窺える。
「じゃあ帰りに、様子見に寄るっスね」
「大丈夫だってば、ありがとう!」
「なんかあったらすぐに連絡するんスよ!」
「了解っ。無理して怪我しないようにね」
あんなにも心配させてしまうのがあまりに申し訳なくて、足早に体育館を去った。
大丈夫。
まだ明るいもの。