第57章 透明な君
「みわ、無理しなくていいんスよ」
「ううん、無理してるわけじゃないよ」
涼太は、やっぱり凄い。
撮影が始まってから今の今まで、ずっと涼太に頼りっきりだ。
緊張してしまったのをほぐして貰うのまで。
手伝うなんて言って、私結局なんにも出来ていない。
監督さんからの、オーダー。
『黄瀬君に恋をしてる設定』
……その気持ちなら私、自信ある。
魔法がかかった今の私なら、表現できるかな。
肩口から顔を覗かせる……というのは理屈では分かってるけど、どうやったらどう写るのか、というのは無知な私では想像しきれなくて。
さっきまでの涼太は、それすらも計算してポーズを取っていた。
きっと、経験があってこそ出来るものだろう。
……出来ない事をいきなりやろうとしてもだめ。
今、私ができることをやるだけやろう!
下着、外れてしまったけど付け直した方がいいのかな…。
いや、今直す時間が入ったら集中が切れてしまう。
「涼太……胸……隠していてくれない?」
ぽそっとお願いすると、涼太は嬉しそうに微笑んだ。
「お任せを、姫」
涼太の手が胸に触れる。
ドキドキの鼓動も全部、聞こえてしまいそう。
カメラは、正面のみ。
涼太はカメラに背を向けている。
まるで、沢山の目に晒されている気分。
そのレンズの奥に、数え切れないほどの人間達がいる錯覚。
黒く大きいカメラには、それ程の迫力があった。
足が震える。怖い。
『自分』を表現する事が、怖くてたまらない。
……勇気が、ほしい……!
奮い立たせるように、そっと涼太の唇を奪った。
いつもの、柔らかくて温かい彼だった。
瞬間、強い光が辺りを包む。
あれだけ大きかったシャッター音がもう、聞こえない。
ライトが熱い。
必死で、とにかく必死で動いた。
好き。
好き。
大好き、涼太。
私にはそれしかない。
なんにもない。
触れ合う肌が、熱い。
気づくと涼太が動きをサポートしてくれているのが分かった。
「ッあ……」
時々、カメラから見えない所で胸の先端を愛撫されて、熱はどんどん上がっていく。
「みわ……キレーっスよ……」
涼太の小さくて甘い囁きに包まれて、まるで身体を重ねている時のようなそんな感覚に陥っていた。