第57章 透明な君
「おもっ、お待たせいたしました」
しょっぱなから噛んで、笑われながらもスタジオに戻る。
バスローブの下はあんな恥ずかしい格好だと思うと、今すぐ帰りたくなる……。
メイクさんに連れられ、大きな鏡のついた机の前に座った。
「みわちゃんって可愛いね。素材がいいから凄く化粧映えしそう」
「あの、お化粧ってしたことがなくて」
この間ハロウィンパーティーでチークと色付きリップを塗って貰ったくらい。
「う〜ん、今日はナチュラルでいかなきゃかな。残念! ファッション誌の撮影の時は声かけてね!」
スタジオで撮影をしようって言うんだから、皆私がモデルだと思っている。
でも、Sariさんと並べば一目瞭然なのに。
本物とはとにかく質が違う!
ナチュラルといいながらも、顔全てに色々塗られた。
丁寧に説明しながら化粧をされたけれど、そもそもの名称すら分からないものだらけで、何をされているのかは把握出来ていない。
「どう? 色っぽく仕上がったかな?」
鏡に映った自分は、まるで別人みたい。
肌は何もしてないよりも何もしていないみたいに輝いているし、唇はツヤっとしている。
「メイクって凄いんですね……」
「あら、褒めて貰えて嬉しい。メイクは女の子がキレイになる魔法だからね」
キレイになる……魔法……。
今私、魔法がかかってるんだ。
その言葉を味方にして、少しだけ勇気に変換した。
「さ、次は衣装かな」
衣装さんが着て、バスローブの前面を開ける。
は、は、恥ずかしい。
「あちゃー……キミもか……」
あ、キスマークのこと……?
「ちょっと待っててね」
衣装さんは監督に話しかけ、ウンウンと頷いている。
「うん、そのままでいいって」
そう言われてホッとしたけれど、ダメって言われたら、どうしていたんだろう……?
消す方法があるのかな。
知らない事だらけだ。
涼太はいつも、こういうところでお仕事しているんだな。