第57章 透明な君
一旦控え室に戻る事にしたけれど……私、なんかとんでもない事決めたんじゃ……。
「Sariさん……」
「ごめんねみわちゃん。私に話を貰ったんだけど、今の私に『恋』の表現はきっと出来ない」
恋を失ったばかりのSariさん。
「こんな事言ってたら、プロ失格なんだけどね……」
その目は寂しそうだった。
もし私がこの恋を失ってしまったら、どうなるだろう?
想像して、思わず身震いをした。
「で、でも、私なんてもっと……表現するなんてどうしたら……」
「貴女はいいのよ。リョウタの事が好きだなって思っていればそれだけで」
「えっ」
「たかが写真だ、って思うでしょう? でもね、ファインダーを通せば、心の中が丸見えになってしまう」
「こころの中が……」
それってなんか、怖い。
取り繕っても意味がないということ?
「薄っぺらい演技なんて通用しない。貴女は、貴女の気持ちを出しているだけでそれだけでいいの。後はリョウタに任せて」
気持ちを出す、だけ。
それが物凄く難しいような気がするけれど……。
「……分かりました。やれるだけ、やってみます」
「そこで腹を括ってやろうとする所、あたし凄く好きだわ。尊敬する」
Sariさんはそう言うと、パッと背を向けてしまう。
「さ、準備しましょ。まずは服を脱いで、そこのバスローブを着て」
温泉以外で人前で裸になったことなんてない。
コソコソと服を脱いで、バスローブを羽織った。
「で、その水着を履いて」
言われた通りに薄い水色の水着を履く。
これ、ちょっと布面積が小さくないですか?
「胸はこれね」
これは、一時期テレビで良くやっていた、胸に貼り付けるタイプのブラジャー。
肩ひもも背中のひももないから、夜会用ドレスにはピッタリなんだとか。
Sariさんからアドバイスを受けながら、なんとかそれらを装着した。
「キスマークは……メイクさんに聞こうか」
まじまじと肌を見られ……そう言えば、涼太に付けられた跡が。
あ……結構濃い……。