第57章 透明な君
先ほどの撮影スタジオ。
涼太の姿はない。休憩中のようだ。
……正直言うと、会いたいな。
Sariさんが男性に駆け寄る。
「監督、ご無沙汰です!」
「おーSari、相変わらずだな」
監督と呼ばれた男性。
恰幅が良く、髭を生やしてサングラスをかけている。
こんな薄暗い部屋でサングラスをして、前は見えているんだろうか……と全く余計な事を考えた。
「ネエ監督、この子どうかしら」
そう言って、Sariさんは私の両肩を掴んだ。
「今回の広告のイメージにピッタリじゃない?」
?
なんの話?
「……キミ、新人?」
え?
私のこと?
「ううん監督、この子は一般人。私の友達よ」
「……確かにイメージ通りだな」
……ふたりは、なんの話をしているの?
「キミ、名前は?」
「ほ、神崎です」
「下の名前」
「みわ……ですが……」
しまった、偽名とか使った方が良かったのかな……なんか怪しい雲行き……。
「ちょっと悪いけど、そこに立って」
中央のベッド辺りを指差され、訳のわからないままに移動すると、ライトに照らされる。
「レフ板お願い!」
「レフバン」なるものを男性が持ってきて、何やら角度を変えている。
「みわ、こっちに目線貰えるかな」
よ、呼び捨て!?
呼ばれた方を振り返ると、テレビで見るような立派なカメラが目に入る。
ピーピーピー
パシャーッ
という音とともに、強烈なフラッシュが目を眩ませた。
一体なんだっていうの!?
「みわちゃん、こっちこっち」
Sariさんが手招きする方へ行くと、何やら皆が画面を覗き込んでいる。
どうやら、今撮った写真が既にパソコンに転送されているらしい。
凄い、文明の利器……!
じゃなくて。
アホ面した私を皆に見つめられて、顔から火を噴いて倒れそうだ。
「うん、いいね。みわでいこう」