第57章 透明な君
「Sari……かあ……キレイな子だけどね、彼女もイメージピッタリというわけじゃないな。もっとこう、透明感のある……」
「ちょっとアクの強さがありますよね」
監督と撮影者のやり取りをオレは眺めているだけだ。
モデルは彼らの意思ひとつで決まる。
「しかし、他のモデルは……」
アワアワと慌てるスタッフ。
彼が悪いわけではないのに、まったく気の毒な話だな。
「……仕方ない。元の子よりはマシだ。Sariでいこう。ウイッグと修正でイメージに合わせる」
「まあ、今回メインは黄瀬君だから、顔がバッチリ写るという事はないしね」
ここで、何が何でもイメージに合うモデルではないと撮る気はしない、と言って帰ってしまう監督やカメラマンも多いが、彼等はそういった類ではないようだ。
イメージと違ったモデルを使ったとしても自分の作品の世界観は削がれないという、絶対の自信があるのだろう。
Sariと絡むというのは全く気乗りがしないが、彼等のプロ根性に、俄然やる気が湧いてきた。
黄瀬涼太、初セミヌード。
やってやるっスよ。
「じゃあ黄瀬君、着替えて来てね。先に黄瀬君ひとりの撮影から入るから」
衣装さんに声をかけられ、控え室へ戻った。
荷物を置き、ふとスマートフォンを見る。
特に着信や受信はない。
みわは必要以上に連絡をしてこない。
……Sariと仕事をする事、おまけにヌードで絡む事を言っておいた方がいいんだろうか?
いや、でも話すなら今夜、顔を見て話したい。
ヘタにメールなんかして、ひとりでいる時に不安にさせたくない。
スマートフォンは鞄へしまった。
意を決して衣服と靴を全て脱ぎ、用意されてあるバスローブを羽織ってスリッパを履いた。