第57章 透明な君
涼太は1日撮影で、お母さんやお姉さんも午後からお仕事だというので、私もお邪魔にならぬよう涼太のすぐ後に出発し、帰路に着いた。
涼太の事を考えながら電車に乗り、涼太の事を考えながら道を歩く。
自分の中で彼の存在がかけがえのないものになっている。
もう離れられないし、離れようとも思わない。
私の出来る全てで、彼の隣に居たいと思った。
例え誰からどう思われても、それが私の本心だ。
……強く、なりたい。
街は人もまばらだ。
新年独特の雰囲気。
空気は肌に刺さるように冷たい。
肺に入った冷気が、内臓ごと身体を冷やしていく。
近所の小さな公園を横切る際に人影を見つけ、ふと横目で確認すると……ブランコにSariさんが座っていた。
その目は空をずっと見つめている。
昨日はあれからどうなったんだろう。
野次馬根性は好きではないけれど、なんとなく気になって歩み寄った。
「……あ、みわちゃん」
まるで寝起きのような芯のない声で、ぽつりと私の名前を呼んだ。
冷え切った鎖部分に触ることはせず、隣のブランコに腰掛ける。
「……あたしね、別れたんだ」
抑揚のない声だった。
「……そうですか……」
何と言ってあげるのがいいのか分からなかった。
もし自分がその立場なら、他人の言葉なんて耳に入らないような気がして。
それに、Sariさんの言い方は、ただ誰かに聞いて欲しかった、そういう雰囲気だった。
「……でも、ちゃんと伝えられた。今度は、間違えない。……ありがとう」
前の一点だけを見据えてそう言った彼女の目には光が宿っていた。
「……みわちゃん、私、ちょうど貴女に会いたかったの。今日1日、貴女の時間を私にくれないかしら」