第57章 透明な君
ピピピピッ
「……ん」
耳元に置いておいたスマートフォンのアラームを消す。
昨日はお姉さんとお喋りしているうちに眠くなってしまったんだった。
枕を顔に押し付けて寝ているお姉さんを起こさぬように、ベッドを抜けた。
しんと静まり返る廊下は底冷えする寒さで、移動の足がつい早まる。
隣の涼太の部屋をノックしても、返事はなかった。
そっとドアを開けて中を覗くと、ベッドは既に空。
もう起きて1階に行ってしまっているらしい。
ふらりと足が誘われて、部屋の中に入ってしまう。
起きた時のままの形を保っている布団に触れると、まだ温かい。
顔を寄せて匂いを嗅ぐと涼太の香りがして、まるで抱きしめられているよう。
「りょうた……」
温かい。
涼太がさっきまでここで寝てたんだ。
いつもはそんな彼の隣で眠っているのに、物凄くドキドキしている自分がいる。
ボフッと上半身ごと沈ませて、布団にくるまったりして、涼太の温もりを堪能した。
「りょうたぁ……」
涼太、好き。大好き。
香りや温もりだけでも、こんなに……。
「……何可愛いことしてんの、みわ」
突然聞こえた声に咄嗟に反応できず一拍置いてから振り返ると……既に着替えを終えた涼太が立っていた。
「?!」
しまった。
私は馬鹿なのか。
涼太がここに戻ってくる事を想定していなかった。
「……オレ、もう行こうかなって思ってたんスけど」
「ごっ、ごめんなさい! つい……っ」
慌てて布団から離れて涼太に駆け寄る。
気付けばもう出発と聞いていた時間だ。
「……みわ、今夜は寝かさないからね」
そう言って形の良い唇は私の額にキスを落とした。
いつもより余裕のないその声は耳からするりと入ってきて、足元までをジワジワと欲情の色に染めていった。