第57章 透明な君
涼太の部屋……夏にお邪魔して以来だ。
余計な家具がないのは、今の部屋と同じ。
部屋に入った途端、ふわりと涼太の香りに包まれて心臓が跳ねた。
さっき……家で……キス、したかったな……。
無意識に、触れられた下唇を撫でていた。
「みわ、ゴメンね姉ちゃん達があんなで。疲れたでしょ」
涼太が、ベッドへ腰掛けた。
……何を、意識してるの、私。
「ううん、楽しいよ」
「なんか聞いたことなかったけど、みわってさ兄弟いるんスか?」
「え……? あ、わたしは……ひとりっ子……だよ」
なんだろう。この違和感。
ひとりっ子だ。うん、私はひとりっ子。
「姉ちゃん達、妹が出来たってウルセーんスわ。悪気はないんだけど」
「私も、仲良くして貰えて嬉しい」
「みわ、そんなトコに突っ立ってないで座んなよ」
……と言われても……私も涼太のようにベッドに座るべきか、テレビの前の小さなソファに座るべきか……。
少し悩んで、涼太の隣に座った。
「明日ホントにごめんね。まさか撮影入っちゃうなんて……」
「明日は雑誌の撮影なの?」
「いや、なんか新しい香水なんだって。写真だけ貰ってきたっスわ」
涼太が鞄からぴらりと写真を出した。
「わ、可愛い瓶だね。"恋する香水"って素敵。……でも、水色のボトルなんだ」
「確かに、恋する〜なんて言ったら普通ピンクとかを想像するっスよね」
「涼太をモデルに使うくらいだし、ユニセックスなイメージなのかな?」
「そうかも。イメージつけとかないと」
写真に目を落とした横顔がキレイ。
瞬きすると睫毛が揺れて。
きらきら、きらきらとまるで星みたいに輝いてる。
キレイ……。
真剣な眼差しに目を奪われていると、突然涼太がこちらを向いた。
多分私、口は半開きでアホ面していたと思う。
「みわ……触れていい?」
……最中には何度か聞かれたことがあるけど、こんなに何もない状態で聞かれたこと、ない。
「……うん」
ふわっと、手のひらが頬に触れる。
大事なものを撫でるように、髪に優しく触れる。
その手が、きもちいい。
首筋を伝った手が、腰に回って顔が近づいてきて……
コンコン、と軽いノック。
「涼太、ご飯」
「……早いね……りょーかいっス……」
涼太はがくりとうなだれた。