第56章 信頼のかたち
「あの、これは蜂に刺されて……!」
「みわ……」
「あ、あの、おたふく風邪で……」
「……みわ」
「あ、あ、あの、虫歯が」
「みわ」
「…………………………Sariさんと……」
「アイツ……ッ」
カッとなって、玄関へ向けて走り出す。
みわに暴力を振るったなんて……!
「涼太、待って!」
グイッとシャツを引っ張られ、
危うくバランスを崩しそうになった。
「なんスか! なんで止めんの!」
「いいの! 私も散々、殴ったから……!」
「……え」
Sariはあの通り、何かと不安定で手段を選ばない所がある。
薬を盛って強姦するような女だ。
きっとみわにも酷い仕打ちをして組み敷こうとしたのかと思ったが……殴った? 散々?
「何が……あったんスか……来たのはSariだけ? 他は?」
「来たのはSariさんだけ」
嘘をついている目ではない。
Sariが言っていたような事にだけはならなくて良かったと安堵した。
「今は、そっとしておいてあげて」
「そんなん納得できねぇスよ……オレ、許せねぇ」
「私だって、許せない。許さない。でも、……お願い」
そう言ってオレの手を握り、真っ直ぐ強い目で見つめるみわは圧倒されるほどの迫力だった。
「……分かったっス……」
つい、はあと大きくため息をついた。
オーブンからチーズの焼けるいい匂いがする。
「ね、ご飯、食べよう?」
みわは微笑んでオーブンから耐熱容器を2つ取り出した。
出来立てのオニオングラタンスープだ。
オレの大好物。
「ん〜……美味い。相変わらずみわの作るオニオングラタンスープは絶品っスね」
時間をかけてあめ色に炒めた玉ねぎに、みわの温かい気持ちを感じる。
「良かったぁ」
にへっと目元を崩して笑う姿が可愛くて。
でも、真っ赤な頬が痛々しい。
あの夜のこと、聞いたんスか?
どこまで聞いた?
なんて聞いた?
どう思った?
正直、どういう態度で接すればいいのかが分からない。