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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第56章 信頼のかたち


「はーい黄瀬くんオッケー!」

現場監督のOKが出て、なんとか撮影は終わった。

「よかったよ! 突然お願いしてしまって悪かったね」

「いえ、お役に立てて良かったっス。スンマセン、じゃあオレはこれで失礼シマス」

衣装を脱ぎながら控え室に戻ると、部屋ではマネージャーが待っていた。

「あ、黄瀬くんお疲れ様。久々なのに一発オッケーとはさすがね」

「お疲れ様っス! じゃあ、オレ帰ります」

マネージャーがこちらを見ていないのをいいことに、その場で着替え始める。

「ああ、急いでるんだったよね。明日はもう少し遅い開始時間だし、青山のスタジオだから楽でしょ。また明日」

「……は……? 明日……?」

なんだそれ。
聞いてねぇんスけど。

「あれ? これもSariちゃんから伝えて貰った筈なんだけど……」

「あ、明日までなんて聞いてねっス! 他のヒトいねぇんスか?」

「何言ってるの。明日の仕事は正真正銘、アナタに来た仕事なんだから。今更キャンセルなんて出来ないわよ」

「……マジっスか……」

今は1秒でも長くみわと居たいのに。

「すぐ終わるっスかね? なんの撮影?」

「はぁ……本当に何も聞いてないの? 追って連絡しなかったわたしのミスね。ごめんなさい。明日は1日がかりで新作香水の撮影よ」

「香水……」

みわのふんわりした香りを思い出す。
香水なんてつけていなくても、甘く優しい香りが鼻を擽るんだ。

みわに会いたい。

「……ワカリマシタ。じゃあ、明日」

撮影スタジオなどの詳細が書かれたメモを受け取り、荷物を乱暴に手に取って、駅までの道を走り出した。

スマートフォンを取り出し、着信がないことを確認してからみわに電話をかける。

頼む、無事でいて。

『……もしもし?』

その一言で分かるくらいの鼻声だった。
足が止まる。

「……みわ? 誰か来た?」

『……Sariさんが、きたよ』

遅かった。

「何か言われた? 何かされた?」

『ううん、この間のお礼って……お菓子を置いて行ってくれただけ』

そんなわけあるか。
あのヒトがそれだけで帰るわけがない。

「オレ、撮影終わったから。これから帰るからね!」

『うん、待ってるね』

弱々しい声だった。


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