第56章 信頼のかたち
「満たされるかですって? リョウタとのセックス……最悪な時間だった。自分の下で違う女の名前をひたすら呼ばれ続けてみなさいよ。
みわ、みわって、あんな惨めなセックス、初めてだわ」
涼太。
涼太の気持ちを想像して、涙が出てきた。
あの傷付いた目。
私もSariさんの頬を張っていた。
何度も叩いた。
「い、痛いわね! なにすんのよ!」
「涼太を、涼太を傷付けるのはたとえ誰でも許さないッ!!」
「……どいつもこいつも、そんな大事なら首に縄でもつけて捕まえてなさいよ!」
いつの間にか掴み合い、殴り合いになっていた。
「はぁ……はぁ……ナメんじゃないわよ……」
「ハァ……Sariさんは、間違ってる」
グッとまた胸倉を掴まれ、叩かれた。
血の味が口の中に広がる。
「言ってみなさいよ……何が間違ってるって言うのよ……」
「自分の虚しさをひとに押し付けないで……Sariさんが幸せになれないのは、貴女が逃げているからよ!」
Sariさんの手が止まる。
「逃げている……ですって……?」
「そうよ……Sariさんは自分が向き合わなきゃならない問題から目を逸らして、分かりやすい快楽に逃げているだけよ!」
「なによ、それ……!」
「涼太に酷いことをして、惨めな気持ちになったんでしょう!? 貴女が求めているものはそんなものじゃないって、早く気付きなさいよ!」
私もSariさんも、ボロボロと涙を流し、頬は真っ赤に腫れ上がっている。
「あんたに……あんたなんかに……この苦しみが分かるわけがないわ……! 恋人に愛されてるあんたなんかに、分かるわけない……! あたしだって、愛されたいのに!」
「……!」
それは、突然現れた"彼女自身"の言葉。
そう叫んで俯いた彼女があまりにも小さく儚く見えて、思わず抱きしめてしまった。
「……っ、同情はお断りよ! 離しなさいよ、また殴られたいの!?」
「……」
「聞いてんの!? 離せって言ってんのよ!」
今出たのは、このひとの本音だ。
悲しい悲しい、ずっと秘めていた本音。
「私は聞いてあげる位しか出来ないけど……」
「……何よッ……それ……!」
Sariさんは、暫く肩を震わせて泣いていた。
私の頭の中も怒りで満ちているのに、何故か彼女が落ち着くまで、抱きしめていようと思った。