第56章 信頼のかたち
「……ぅ……」
身体が重い。
下半身が重い。
目が開かない。
隣に人肌の気配を感じ、いつもそうしているように抱き寄せた。
……違う。
これは、みわじゃない。
香りも肌も体温も、オレの求めていた温もりではない。
咄嗟に腕を解きなんとか重い瞼を開けると、裸体のSariが微笑みながらオレを眺めていた。
「おはよう、リョウタ」
オレに触れようとした手を払いのけた。
もう身体は思い通りに動く。
こんな所に用はない。
ベッド下に落ちている衣服を手に取る。
少し離れたところににある、悪臭を放つシーツの塊が目に入った。
オレが昨日しこたま吐いたからか。
道理で、シーツがない筈だ。
頭がガンガンと痛む。
薬はもう抜けただろうか。
窓の隙間から朝日が差し込んでいる。
あれから何時間経った?
携帯を確認するが、みわから連絡は入っていないようだ。
体調も悪かったし、眠っているのかもしれない。
「リョウタ、浮気しておいて平気な顔で彼女の元へ帰るの?」
Sariの言葉が背中に刺さる。
浮気したわけでは……ない。
オレはみわしか愛していない。
でも、Sariの中にオレが入ったのは事実だ。
途中からは記憶にないが……。
オレ自身がどんな気持ちでいようと、無理矢理だろうとなんだろうと、あのような行為をしたのは事実。
みわに、何て言えば。
「浮気なんて、してねぇっス。みわだって、分かってくれる」
精一杯の強がりだ。
みわがどう思うのかが、一番恐ろしいくせに。
「あら、意外に強いのね。つまんないな。じゃあいいわ、向こう側を壊すから」
「……なんだって?」
それは、どういう意味だ。
「みわちゃん側を壊すって言ったの。数人で輪姦しでもすれば、二度とリョウタと仲良くしようなんて思わないでしょう?」
輪姦すだって?
「ふざけるな」
「昨日のマスターみたいにね、私、悪い事の協力者はいっぱいいるの。彼らは今すぐだって行ってくれるわ」
「……」
「あれだけ可愛くて純粋な子だもん。犯したいってヤツはいっぱいいるわよ」
「……何が目的だ」
「だから言ったじゃない。貴方達がボロボロに崩れ去ればいい。……不幸になればいい」
氷のような声が響き渡った。