第56章 信頼のかたち
「マスター、いつもありがとね」
そう言ってSariが男に何かを渡しているのを見て、初めて気がついた。
「まァ、ほどほどにな」
男はSariの協力者だったのだ。
ラブホテルの一室に連れ込まれ、無駄に大きなベッドに転がされたオレは身動きひとつ出来ない状態だった。
動け、起き上がれ、立て、歩け、走れ、逃げろ。
どの命令にも、身体は応えてくれない。
男が部屋から出て行くと、静寂が訪れる。
「リョウタ……来てくれるなんて思わなかったから、本当に嬉しい」
Sariの指がオレの髪を梳く。
やめろ、触るな。
「……みわ、が、アンタのこと放っておけない、って……言うからだ」
「みわちゃんが? 本当にいい子ね。……それがこんな事になってるんだから、世間知らずのお馬鹿さん」
そう言ってニヤリと笑い、Sariの唇が重なった。
唇を噛んでやると思っても、力が入らない。
口はSariの手によってだらしなく開けられ、口内を舌によって蹂躙される。
クソ、クソ、最悪だ。
みわ……みわ、ごめん。
Sariの手がオレの衣服にかかり、手際よく脱がしていく。
興奮もしていないのに勃っているペニスを、まさぐり始めた。
「やめ…………ろ」
「やっぱり高いお金出して輸入品買って良かった。このクスリ、効くでしょう? 今日は何度でも出来ると思うわよ」
「なん……で、こんな」
「幸せそうにしていたから」
「……なん、だって……」
「貴方達が幸せそうに手を繋いで、キスをして、笑ってるからよ……!」
何、何を言っているんだ。
Sariには、恋人もいる。
さっきの話だと、うまくいってないんだろうけれど。
オレたちが羨ましかっただけと言いたいのか。
「ふ……ざけるな」
「うまくいっているものを見ると壊してしまいたくなる、って何かの歌でなかったかしら?」
Sariがペニスを扱く。
「うぁ……あぁ」
訳のわからない快感が、動かない身体中を走る。
「うふふ、キモチイイでしょ? おクスリ使うと、癖になっちゃう人いっぱいいるのよ」
「あ、ぁあ、やめ……」
勝手に身体が反応する。
痺れたようにハッキリしない感覚の中に突然、乱暴な快感が割り込んできた。