第56章 信頼のかたち
……なんだ……?
身体が熱い。
異変に気付いたのは、コーヒーももうすぐ飲み終わるという頃。
下腹部のあたりがじりじりと疼く。
この感覚は……そう、
みわに欲情している時のソレだ。
腹でも壊したかと腹をさすると、驚くことに勃起していた。
……どういう……ことだ……?!
自分の身体なのに、全く興奮していない状態でこんな反応をしているのが不可解で、気味が悪い。
……無意識にみわの事を考えたか……?
ふと目の前の女性を見て気がついた。
Sari。まさか……
「……コーヒー、なんか混ぜたんスか」
彼女は微笑みながら、言葉を返さない。
「Sariサン」
いつの間に。
店員がコーヒーを置いた時だって、特に不自然な動きはなかった。
「ふふッ、若いと効きがいいって本当だった」
こうしている間にも、身体の熱はどんどん上がってくるようだ。
「……帰る」
ガタンという音が響き渡る。
勢い任せに立ち上がったので、椅子を引いた音かと思えば……立ち上がったオレがすぐに尻餅をつき、椅子が倒れた音だった。
立てない。
なんだ、これ。
「リョウタ、大丈夫? マスター!」
マスターと呼ばれた大柄の男性がこちらに歩み寄り、肩を貸してくれる。
「……お店ではお静かにお願いしますよ」
「す、スイマセン……」
椅子に座らせて貰ったが、腰がガクガクと震えて止まらない。
「お客さん、お水持ってきましょうか?」
「あ、お願いします……」
まさか、まさか薬を入れられるなんて。
水を飲んで中和させないと。
そう思ったのに、水を飲んでも改善は見られない。
「リョウタ、行こうか」
整った顔でそう微笑まれるのがなんとも不気味で、ゾッとする。
更に足まで震え、歩くどころか立ち上がることさえできない。
申し訳ないことに、再び大柄のマスターに手伝って貰い、店を出た。
「Sariちゃん、彼こんなんじゃ帰れないでしよ」
「……ぁ、……う」
「ふふ、じゃあマスター、ホテルまで手伝って? 休んでから帰るわ」
「仕方ねぇなァ…」
気付かなかった。隣がホテルだったことに。
Sariが触っていないのに薬を盛られたことに。
マスターがSariの名を自然に呼んだことに。
水を飲んでから症状が更に悪くなったことに。