第56章 信頼のかたち
電車内だというのに息が白い。
始発電車の発車までにはあと数分ある。
開きっぱなしのドアから入り込んでくる冷気に、ぶるりと身体を震わせた。
この時間に電車に乗っている人は少ない。
元日は初詣の客で賑わっていただろうけど。
……頭が痛い。
まだまだ休日感の漂う中、重い気持ちで座席に体重を預けていた。
2日の夜。
あの時起こった事が、何より気分が沈む原因だった。
あの夜ーー……
オレは深夜料金のタクシーを降り、Sariから連絡のあった方面へ歩くと、雑居ビルの隅に座っているSariを見つけた。
「リョウタ……!」
「Sariサン、怪我とかしてねぇスか」
「うん、大丈夫」
「じゃあ、帰るっスよ」
彼女の無事が確認できたのならオレの仕事はほぼ終わった。
踵を返して、車通りの多い幹線道路を目指して歩き出した。
「リョウタ、待って」
「……なんスか?」
「あったかいもの、飲みたい」
此の期に及んで何ワガママ言ってるんだと思ったが、身体が冷えた状態でまた風邪を引かれてみわが心配するのは避けたい。
「自販機……」
「ね、そこのコーヒーショップ朝までやってるから、入っていい?」
彼女の身体は見るからに震えていた。
仕方ない、一杯だけ付き合うか。
「はあ、あったかい」
窓際の席に腰を下ろし、コーヒーを2つ頼む。
この周りの席に他に客はいない。
落ち着く席だった。
店員はすぐにコーヒーの乗ったトレイを持ち、こちらへ向かってきた。
「ごめんね。こんな時間に」
早速コーヒーに口をつけた。
冷え切った身体の芯が温まるようだ。
でも、本当なら今頃、
みわが入れてくれたお茶をコタツでふたりで飲んでいたはず。
「二度と、こういうのは勘弁して欲しいんスけど」
「ごめんね……」
珍しくしおらしい。
「……恋人と、ケンカしちゃって」
「そうなんスか」
まったく抑揚もない返事をした。
だって本当に、どうでもいいことだから。
「リョウタ、冷たい」
「そうスか?」
会話を弾ませるつもりもないオレは終始そんな感じで冷静に返していたが、、体内に燻ってくる熱に気がついたのは、それから暫くしてのことだった。