第56章 信頼のかたち
「じゃあ、行って来るっス。終わったらメールするね」
翌日、朝早くから涼太はモデルの仕事のため、外出していった。
私は、なかなか読む機会のなかった小説をまとめて読んでしまいたくて、リビングで読書。
今日は1日家に籠る予定。
まだ時間が早いから、洗濯機と掃除機はもう少し日が昇ってからにしよう。
温かいお茶を飲みながらゆっくり本を読もうとしたら、玄関のチャイムが鳴った。
……まだ薄暗いこんな時間に。
涼太が忘れ物して、急いでいるのかも!
走って玄関まで向かった。
念の為ドアスコープを覗くと、……Sariさんがいた。
「はい……」
「あ、みわちゃんごめんね。こんな朝早くに」
涼太はとっくに出発したのに、間に合うのだろうか。
「あの……涼太はもう行きましたが」
「うん、そうよね。今日の撮影は早くからだから」
「……? Sariさん、急がなくて大丈夫なんですか?」
「ん? 私は今日オフよ」
……え?
「そうなんですか? Sariさんから今日のお話を頂いたと聞いていましたが」
「ああ、ドタキャンが出て困ってたみたいだから、代わりに代役探してあげてただけ。私の仕事とは別モノなの」
「……そうなんですか」
「みわちゃん、寒いんだけど」
「寒いですね」
開いたドアから、冷気がガンガン攻め込んでくる。
「部屋、入れてくれない?」
「えっ」
まさかの申し出に、素っ頓狂な声を出してしまった。
「涼太と何があったのか、知りたくない?」
「……」
知りたい。
ずっと気になっていたことだ。
でも、涼太が話してくれるのを待ってるから……
「私」
「すぐ帰るから。お邪魔するね」
Sariさんは強引にドアの隙間から入り込んできた。
あまりに自然にそうしたもので、追い出すタイミングを完全に逃した私はリビングに向かって行く彼女を慌てて追いかけた。