第56章 信頼のかたち
涼太のその目に見つめられると、息が止まりそうになる。
はあと息をつくと、気が抜けたように途端に力が抜けてへなへなと座り込んでしまった。
今、私は何をした?
激情に駆られて物凄く恥ずかしい事をしたという自覚はあるけれど、やった側である自分ですら、何が起こったか未だ分かっていない。
ここのところ恥ずかしい所ばかりを彼に見られているので麻痺しているのか。
私の今の行為は、涼太に何を伝えようとしたのか。
「……変な事して、ごめんなさい」
「みわ……ごめん」
涼太は、私に乱された衣服を整える事もせず、そっと私を抱きしめた。
心なしか、彼から香る不快な甘い香りが弱くなった気がする。
「ごめん、みわ……オレ、みわを裏切って」
違う。
そんな言葉を聞きたいんじゃないの。
「涼太、裏切るってどういうことなのかな」
「え?」
涼太の様子からして、昨夜はSariさんとそういう関係になったのではないかと思う。
悲しい。悔しい。物凄く嫌だ。
それは、本当の気持ち。
でも今の私には、浮気をされたとか、裏切られたという気持ちはない。
それよりも、涼太にあんな目をさせてしまった事の方がずっとずっと心の中に重く、響いてくる。
涼太も、ずっとずっと傷付いている。
「……」
「私にとっての裏切りって……相手に不誠実な嘘をつくこと、……つまり故意に騙すこと……自分自身にも嘘をつくこと……とか、だと思うんだ」
パートナー以外のひととキスするとか、セックスをするとか、そういうのも……勿論、該当するのかもしれないけど、私はその時の相手の心情の方が気になってしまう。
だからこそ、涼太は絶対に私を裏切るような事はしないという自信がある。
涼太は、そういうひとではない。
もしSariさんの方がより大切になったら、コソコソと二股をかけるようなひとではない。
性欲のためだけに手当たり次第女性と関係を持つようなひとではない。
分かっている。
ちゃんと分かっている。
「みわ?」
「私、涼太のこと信じてるから」
何度もこころの中で言った言葉を伝えた。