第56章 信頼のかたち
「みわ……オレ、明日急遽モデルの仕事が入ったんスわ」
「そうなの?」
ここ最近モデルの仕事なんて全く受けていなかったのに。
やっぱりそれは……
「……Sariさんに頼まれた?」
「……そうっス。予定してたモデルがインフルエンザで来れねぇって。ページ数少ないしピンチヒッター的な」
「そっか……それなら、仕方ないね」
声が少しうわずった。
「ごめん、突然。今日は、隣にいるから」
「気にしないで。かえって気を遣わせてごめんね」
涼太が乗った部分のベッドがたわんで軋む。
ふわりと舞う香り。
この甘ったるい香りが、気持ちを乱す。
「あ、うつったら良くないから……リビングに行ってて、くれないかな」
「オレ、うつんねぇっス。だから」
「……頭が痛くて、今すぐ眠りたいの。ごめんなさい」
寝返りを打って、涼太に背を向ける。
いつもとあからさまに違う態度をするなんて、逆効果だと分かっているのに。
涼太の事は信じてる。
私だけを見てくれるって言ってくれた。
これから先も。
でも、いま。
Sariさんが本気で涼太を奪いに来たら?
敵わない。
涼太に今気持ちはなくても、そうなった時に、本当に私だけを見てくれる?
……ますます目が回ってきた。
お腹も痛い。
「みわ、少しでも食べないと薬飲めないから……我慢して食べれる? 薬飲んだら、寝ていいから」
「……うん……」
「待ってて」
急いで涼太は部屋から出て行ってしまった。
しんと静まり返った部屋に空調と加湿器の音だけが聞こえる。
こんな風に考えてしまうのは、風邪で弱っているから。
こんなにも胸が苦しいのは、体調が悪くて余裕がないから。
元気にさえなれば、いつも通りだ。
大丈夫。早く眠ってしまいたい。
カチャリとドアが開いて、トレーを持った涼太が入ってくる。
「は、早いね」
「もう作ってはいたんスよ。食べれる分だけでいいから食べて」
小さい土鍋の中には雑炊が作られていた。
「あ、これ」
「うん、みわが時々作ってくれるやつ。見よう見まねだけどね」
「ありがとう……」
ふうふうと冷まし、口に含むと優しい味が広がって、心まで温かくなる。
「おいしい……」
半分くらい頂いて、薬を飲むことにした。