第56章 信頼のかたち
鳥たちの声が耳に入る。
気付けば、私はマンションの入り口で座り込んでしまっていたようだ。
寒さで縮こまっていた足をなんとか動かして立ち上がった。
辺りはすっかり明るくなっている。
今、何時だろう。
時計は置いてきてしまった。
手にしたスマートフォンの画面をつけることが出来ない。
それは、指がかじかんでしまっているからか。
それとも、見たくないと無意識に思っているからか。
「……みわ!?」
ずっと聞きたかった声に突然呼ばれ、ハッと顔を上げると、タクシーから降りてきた涼太が目に入る。
「りょう、た」
寒さで口が回らない。
涼太が降りたタクシーからもうひとり、……Sariさんが降りてきた。
「みわ、どうしたんスかこんな所で」
「どうした、って……」
「みわちゃん、寒い中待っててくれたの? ありがとう。またね!」
Sariさんはそう言うと颯爽とマンションの中へ消えていく。
「みわ」
「おつかれさま。ぶじ、で良かった。ごめんね、無理いって」
ああ、歯が鳴って舌が回らない。
涼太の目が見れない。
「いつから外に? 身体冷えてないっスか?」
涼太が私の両肩に優しく触れる。
ふわりと、私を甘い香水のニオイが包んだ。
……涼太の香りじゃない。
これは、Sariさんの……。
「……みわ、冷え切ってるじゃないスか」
なんで、なんで涼太はこんなに普通にしてるの?
「みわ、家に入ろう」
「はい……」
Sariさんを放っておけないと言ったのは自分だ。
涼太は、反対していた。
怖くて聞けない。
昨日、何があったのかを。